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今日は第12章 財務諸表の作成と公開
ここで登場する単語
一体的開示、計算書類、会計監査人、監査役会、事業報告、有価証券報告書、EDINET、財務諸表規則、特例財務諸表提出会社、証券取引所、決算単身、明瞭性の原則、総額主義、純額主義、売上高、営業外収益、特別利益、売上原価、販売及び一般管理費、営業外費用、特別損失、区分式、無区分式、営業損益計算、経常損益計算、純損益計算、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益、報告式、勘定式、製造原価明細書、クリーン・サープラス関係、包括利益、評価・換算差額等、リサイクリング、営業循環基準、1年基準、流動性配列法、固定性配列法、株主資本等変動計算書、注記、一括記載方式、会計方針、1株当たり当期純利益、潜在株式、希薄化効果、潜在株式調整後1株当たり当期純利益、後発事象、付随明細表、付随明細書、遡及処理、前期損益修正、遡及適用、財務諸表の組替え、修正再表示、四半期報告書、四半期財務諸表、四半期財務諸表規則、実績主義、臨時計算書類
目次
財務諸表の作成と公開
財務諸表の体系
財務諸表の種類
・会社法と金融商品取引法では財務報告制度を別としているが重複も多い。そのため、一体的開示が許可されている
会社法の計算書類
・会社法がすべての株式会社に作成と報告を義務付けている書類は
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- 注記表
- 事業報告
・1~4は計算書類と呼ばれ、会社計算規則に準拠して作成・監査される
・定時株主総会は決算日から3カ月以内に開催されなければならない。そのため、取締役は決算日後迅速に計算書類を作成して会計監査人と監査役会に提出しなければならない。
・また計算書類のほか事業報告の作成と報告については、監査役会に関さされる
・事業報告とは、BSやPLでは説明しきれなかった会社の経済活動報告であり、企業の実態に関する情報として意義を持つ
金融商品取引法の財務諸表
・金融商品取引法では決算日から3カ月以内に有価証券報告書の作成を義務付けている
・報告書はEDINETで閲覧可能
・金融商品取引法では企業の概要、事業の概要、設備の状況、株式・配当・役員の状況、経理の状況、株式事務の概要が記載される
・経理の状況が最重要で内容は
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- キャッシュ・フロー計算書
- 付属明細表
・これらは財務諸表規則の中で様式が定められている
・会社法との違い
会社法 | 金融商品取引法 | |
期間 | 年次 | 3カ月ごとの四半期財務諸表 |
作成単位 | 個々の会社 | 子会社を含めた連結財務諸表 |
キャッシュ・フロー計算書 | 不要 | 必要 |
・しかし、重複する部分も多いため、特例財務諸表提出会社は金融商品取引法のものとでの個別財務諸表を簡素化できる
対象:連結財務諸表を作成する会社のうちで会計監査法人設置会社
・また、これは別に証券取引所は独自に決算発表の制度を設けている
・決算単身と呼ばれる書類を作成して証券取引所へ提出している
損益計算書
損益計算書の表示原則
・損益計算書は自己資本の期中変動を説明するものなので、明瞭性の原則が遵守されなければならない
総額主義と純額主義
・総額主義:収益項目と費用項目をそれぞれ記載し、両者の差額として利益を表示する方法
・純額主義:総額主義に対して、収益と費用を直接相殺して差額のみ記載する
・原則としては総額主義で記載しなければならない。ただし重要性の乏しい活動は純額主義が許可される
収益・費用の発生源選別分類
・収益項目として、主に、売上高、営業外収益、特別利益
・費用項目として、主に、売上原価、販売及び一般管理費、営業外費用、特別損失
を分類することで、利益の発生源がわかる
収益・費用の対応表示による利益の段階的計算
・収益と費用は分類ごとに分けて表示される。これを区分式といい、一括に表示したものを無区分式と呼ぶ
・区分式は営業損益計算、経常損益計算、純損益計算に区分される
・それぞれ以下の計算
営業損益計算
Ⅰ.売上高
Ⅱ.売上原価
→売上総利益 (売上高 – 売上原価)
Ⅲ.販売費および一般管理費
→営業利益 (売上総利益 – 販管費)
経常損益計算
Ⅳ.営業外収益
Ⅴ.営業外費用
→経常利益(営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用)
純損益計算
Ⅵ.特別利益
Ⅶ.特別損失
→税引前当期純利益 (経常利益 + 特別利益 – 特別損失)
Ⅷ.法人税・住民税および事業税
→当期純利益 (税引前当期純利益 – 税)
報告式と勘定式
財務諸表の様式には報告式と勘定式がある
・報告式:最初に売上高を記載し、順次項目を加減しながら表示していく
・勘定式:複式簿記の通りに貸方に収益項目、借方に費用項目を記載する
・報告式で表示することが多い
重要性の原則
・項目の性質や金額から判断して重要な項目は、他の項目と合算することなく別個の項目として、項目名を記載する必要がある
・逆に重要性に乏しいものは一括表示でよい
・例えば関係会社売上高が20%を超えるときは別途記載するなど
・このほか、PLの簡潔性を保ちつつ重要事項に関する情報を伝達する手段として注記を利用する
製造原価明細書の添付
・製造業の生産コストに関する情報として製造原価明細書の作成が必要
包括利益の測定と表示
・連結財務諸表では当期純利益とともに包括利益も算定し表示することが求められる
包括利益の概念
・利益は資本の増殖分である
・資本と利益の関係を表すものは2つあり、
①貸借対照表の株主資本と損益計算書の当期純利益
… 期首の株主資本 + 当期純利益 – 配当 = 期末の株主資本
→この関係は損益計算書に計上されない項目によって株主資本が汚されない、クリーン・サープラス関係
②株主に資本と評価・換算差額等の合計として算定される自己資本。純資産額の期中変化をもたらす利益こそが包括利益である
… 期首の純資産 + 包括利益 – 剰余金の配当 = 期末の純資産
包括利益の測定
・特徴は有価証券時価評価差額などを直接純資産に計上すること。
・このような項目は、①その他有価証券評価差額金、②繰延ヘッジ損益、③土地再評価差額金、④退職金級に係る調整額、⑤為替換算調整
・これらの項目は個別貸借貸借表の純資産の部で「評価・換算差額等」として、連結貸借対照表では「その他の包括利益累計額」として表示される
・包括利益から当期純利益を見るためには、リサイクリングと呼ばれる方法で、評価差額を売却損益として当期純利益に組み替える必要がある。
包括利益の表示
・包括利益の表示は現在、連結会計に限定されている
・様式は①包括利益計算書を作成する、②当期純利益の算定に続けて、「その他の包括利益」の内訳項目を加減した損益及び包括利益計算書を作成する
貸借対照表
貸借対照表では企業の財政状態に関する情報が十分に伝達されるよう以下の工夫がされる
貸借対照表の表示
総額主義
・資産・負債・純資産はすべて記載し、相殺してはならない
・自己資本と他人資本の構成割合、債務の割合が明瞭ではなくなるため。
・ただし、貸倒引当金や減価償却費は相殺後金額を記載し注記でも構わない
流動項目と固定項目の分類
・流動項目・固定項目を分類することで資金の運用形態と調達源泉を明らかにできる
・営業循環基準と1年基準を併用する必要がある
・営業循環基準:仕入→生産→販売→回収 に登場する資産・負債はすべて流動項目とする
・1年基準:営業外循環は1年を以内に履行するか否かで固定と流動を区分する
流動性配列法
・流動性配列法:貸借対照表上には流動性の高い順に上から記載していく
・固定性配列法:固定項目から記載する
報告式と勘定式
・貸借対照表も損益計算書と同様に報告式と勘定式がある
・企業会計原則は勘定式、財務諸表規則は報告式
重要性の原則
・重要性が低いものは完結に書いてよい。重要なことは注記する。
株主資本等変動計算書
・株主資本等変動計算書:期末残高を貸借対照表に区分表示するだけでなく、期末残高に至る過程を明らかにする目的
・この計算書が必要になった原因は2つある
- 会社法施行により株式会社は剰余金の配当をいつでも決定でき、株主資本の内訳を変動させることができるようになった
- 所定の有価証券の時価評価差額など、貸借対照表上の純資産の部に計上される項目も増加した
・上記の結果、純資産の変動要因が増加したため、各項目の連続性の把握が難しくなったため
・資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式について総額で記載しなくてはならない
・一方、評価・換算差額等と新株予約権は純額で表記する。
注記と付属明細表
注記の意義と方式
・注記は財務諸表本体に関連する重要事項を本体とは別の個所に記載するもの
・注記事項はいかのものを記載する
- 継続企業の前提や重要な会計方針など財務諸表作成の基本となる事項
- 貸借対照表上の個々の項目の内容やそのほかの関連情報
- 1株あたりの利益
- 重要な後発事象
これらについて次から見ていく。
・このほか金融商取引法の適用を受けるが連結財務諸表を作成しない企業はセグメント情報の開示が求められる
・一組の本体を表示した後で、すべての注記事項をまとめて記述する、一括記載方式が広く用いられる
継続企業の前提に関する注記
・継続企業の前提は第三章で説明済み
・継続企業の前提に反して、現実では倒産の危機に瀕している会社もある
・これらの会社は、①そのような事象や状況が存在する旨とその内容、②解消したり改善するための対応策、③対応策の実施後にも重要な不確実性が認められる旨とその理由、④その重要な不確実性の影響、を記載しなければならない
重要な会計方針の注記
・企業が採用している会計処理の原則を会計方針という
・具体的には
- 有価証券の評価基準(時価基準・原価基準)、および評価方法(総平均法・移動平均法)
- 棚卸資産の評価基準(低価基準が原則となる)・および評価方法(FIFO・総平均・移動平均・売価還元法など)
- 固定資産の減価償却方法(定額法・定率法・生産高比例法など)
- 繰延資産の処理方法(費用処理・資産計上)
- 外貨建資産・負債の換算基準
- 引当金の計上基準(貸倒引当金の設定基準など)
- 収益・費用の計上基準(割賦販売の販売基準・割賦基準など)
- ヘッジ会計の方法(繰延ヘッジ・時価ヘッジ会計)
- キャッシュフロー計算書における資金の範囲
・これらは継続性の原則により、毎期継続しなければならないが、①会計基準の改正、②正当な理由、に基づけば変更可能
・会計基準の改正の場合は、その名称と将来への影響を記載する
・正当な理由の場合は、会計方針変更の内容、比較表示されている過去の期間との1株当たりの情報への影響額、純資産への影響を記載しなくてはならない
1株当たり利益
・1株当たり当期純利益は[当期純利益÷株式数]で算定する
・株式分割や併合では株式数が変わり分かりにくくなるので、期首に行われたものとして再計算する
・新株予約権や転換証券を発行している場合は普通株式が増加するため、潜在株式と呼ばれる。
・潜在株式は希薄化効果を持つ。
・希薄化効果のある洗剤株式を持つ企業は、潜在株式調整後1株当たり当期純利益を計算しなくてはならない
重要な後発事象の注記
・会計の利益計算は継続企業の公準により1期間ごとに区切っている。
・しかし決算日後に発生した事象は財務諸表に記載できないので、注記する。
・火災など、多額の増資や減資、会社の合併、係争事件の発生、主要取引先の倒産
など。
これら次期の経営成績や財政状態に重要な影響を及ぼすものを後発事象と呼ぶ。
付随明細表
・付随明細表(会社法では付随明細書):貸借対照表や損益計算書の記載内容を補足するために、重要項目の期中増減や内訳明細を表示した書類
①有形固定資産および無形固定資産の明細、②引当金の明細、③販管費の明細、④関連当事者との取引に関して義務付けられているもの(有価証券、有形固定資産、社債、借入金、引当金、資産除去債務)
財務諸表の遡及処理
前期損益修正と遡及処理
・翌期以降に事後的に遡って修正するケースがある。これを遡及処理という
・日本では前期財務諸表を直すのではなく、翌期に前期損益修正として対応してきたが会計計算規則の変更により可能となった。
遡及処理の要否と方法
以下の3種類
会計方針の変更
・このケースでは、正当な理由が必要。変更後の会計処理方法を過去に適用することを、遡及適用という。
・変更内容や影響は注記しなければならない
財務諸表の表示方法の変更
・遡及適用の可能なもとも古い期間の期首時点での影響を算定して修正する。財務諸表の組替えを行い内容や理由などを注記する。
会計上の見積もりの変更
・会計上の見積もりとは、資産、負債、収益、費用の不確実性がある時に合理的な金額を算出すること
・これは、遡及処理の対象外
その他
・過去の財務諸表における誤りは過去の財務諸表を修正する。これを修正再表示という
四半期財務諸表と臨時計算書類
四半期財務諸表の公表制度
・金融商品取引法では四半期ごとに四半期報告書の作成を義務付けている。四半期財務諸表を含めて開示することを要求している。
・様式などは四半期財務諸表規則により決まっている
・金融商品取引法の開示は連結ベースの情報であるが、連結子会社がない企業は親会社単独の四半期個別財務諸表を求められる
財務諸表の構成 | 作成の対象となる時点/期間 | 対比情報 |
貸借対照表 | その四半期末 | 前年度末の情報 |
損益計算書と包括利益計算書 | 年度の期首からの累計期間 | 前年度の対応する機関の情報 |
キャッシュフロー・計算書 | 年度の期首からの累計期間 (第一と第三四半期は省略可能) |
四半期財務諸表の性質
・四半期財務諸表の考え方には2つあり
①実績主義:3カ月間を年度と並ぶ独立した会計期間のみなす
②予測主義:3カ月は年度末の経営成績を予測するための要素
・日本では実績主義が採用されている。この理由は1)季節変動の影響をあらかじめ予測して調整するよりも、そのまま開示して情報利用者が判断した方がいい。2)営業費用の繰延処理や繰上計上は示威的操作の介入余地が大きい
四半期特有の会計処理
・実績主義の四半期財務諸表は年次処理をするが、以下の2点だけは異なる
①原価差異の繰延処理:標準原価を採用している場合は、継続適用を条件として、原価差異を流動資産または負債に繰延してよい
②税金費用の計算:年間の見積実効税率を利用しても良い。また、税引き前四半期純利益の計算時に、前年度の税金負担率を利用しても良い。
会社法の臨時計算書類
・株式会社による剰余金の配当は年度の途中で何度でも実施できる
・しかもそれはその時点までに獲得した純利益を分配可能額に繰り入れても良い。しかしその場合は、臨時計算書類を作成し監査を受けなければならない。
復讐問題 一問一答
・Q.包括利益の必要性は何か?当期純利益と比較して述べよ
・Q.貸借対照表が総額主義なのはなぜか?
A.他人資本と自己資本の割合を区別するため。債務の割合を知るため。ただし、貸し倒れ引当、減価償却費などの例外あり
・Q.株主資本等変動計算書の目的と必要な理由
A.①会社法施行により株式会社は剰余金の配当をいつでも決定でき、株主資本の内訳を変動させることができるようになった。②所定の有価証券の時価評価差額など、貸借対照表上の純資産の部に計上される項目も増加した。この結果、純資産の変動要因が増加したため、各項目の連続性の把握が難しくなったため
・Q.日本の四半期決算が予測主義ではなく、実績主義なのはなぜか?
A.1)季節変動の影響をあらかじめ予測して調整するよりも、そのまま開示して情報利用者が判断した方がいい。2)営業費用の繰延処理や繰上計上は示威的操作の介入余地が大きい